日本語学校 東京、その展望を探る
個別化と前件肯定を一段階にまとめることもできます。
前ページの推論、つまり「だれであれ」といった一般規則を使って「佐藤くんは進級できない」を導き出した最初の推論は、実はそのような簡略化されたものだったのです。
このようにして、「なんぴとも」、「だれであれ」、「いかなる数であれ」といったことばで表現される原則、原理、法則、法律、諺などから、個別的な結論をいくらでも導き出すことかできるという意味で、原則、原理といったものは大そう重要なものといえます。
ただし、そうした原則、原理そのものがいいかげんなものであれば、それから個別的結論をひき出す手続きかいくら正しくても、その結論はいいものとはいえません。
ですからたとえば、「朝虹は雨、夕虹は晴」のような諺は、もっと科学的な気象の法則で置きかえたほうかよいでしょうし、「けんか両成敗」といった大ざっぱで古風なおきては、もっと厳密な法律的条文で世きかえたほうがよい進歩だといえるのです。
さきにあげた憲法第二十二条に「~の限り」といういいまわしがありました。
これはかなり重要ないいまわしなので、少し検討しましょう。
そこでは「公共の福祉に反しない限り」という但し書きがついています。
つまり条件つきでの自由の保証がなされているのです。
第二十条では、「信教の白山は、何人に対してもこれを保障する」となっています。
信教の自由は無条件的に認められているのに対し、居住、移転及び職業選択の自山は条件つきなのです。
さて条件つきというからには条件文で表現できるはずですから、第二上一条を条件文で書き加えますと、つぎのようになります。
「もし公共の福祉に反しない場合、そしてその場合にのみ、何人も居住、移転及び職業選択の自由を有する」。
つまり「~の限り」を「もし~の場合、そしてその場合にのみ」という同じ意味のことばでおさかえだわけです。
日本の明治憲法では、偶然ではありますが、おなじナンバーの第二十二条に、日本国憲法のいまの条文と似た条文がありますのでつぎに出しまし。
う。
日本臣民ハ法律ノ範囲内二於テ居住及移転ノ自由ヲ有スこの条文も「もし法律が許す場合、そして許す場合にのみ、日本臣民は居化及び移転の自由をもつ」と書きかえることができます。
ところでこの「もし~の『場合、そしてその場合にのみ』という語は、単なる「もし~の場合」とはちがいます。
単なる条件文「もし~ならば、……だ」だけからは、「もし~でないならば……でない」とは必ずしもいえません。
まえにいいましたように裏は必ずしも真でないからです。
しかし[もし?の場合、そしてその場介にのみ]といういい方をしますと、裏は必ず真となります。
そしてさっきの「~の限り」、「~の範囲内」はそれぞれ。
「もし公共の福祉に反するならば居住、移転及び職業選択の自由はない」、「法律の範囲内でなければ居住及び移転の自由はない」を意味します。
つまり裏が必ず真であることを意味するのです。
さて、裏が真であるということは同時に逆もまた真であることです。
ですから「もし~の場合、そしてその場合にのみ」は、逆もまた真なりを意味します。
つまり「もし~ならば……、そして逆にもし……ならば~」を意味します。
そしてそうした文章を双条件文といいます。
「双」とは順・逆「二つ」を含む条件文という意味です。
「何人も」と[すべて国民は]憲法第二十二条には「何人も」という語が使われていましたが、この語はそのほか第十六、J-七、十八条など多くの条にも使われています。
しかし第十一、十三、十四、二十五条などでは「国民は」とか「すべて国民は」が使われています。
そして実は「何人も」と「国民」には、はっきりした区別があるのです。
さて「何人も」の場合は、犬や猫はだめですが、とにかく人間であれば[本人でも外国人でもかまいません。
しかし「国民は」の場合は、日本国民でないとだめなのです。
たとえば第二十条は「信教の自由は、何人にたいしてもこれを保障する」となっていますから、日本在住の外国人、たとえば外人宣教師にたいしても信教の自由か保障されます。
ところか第十五条「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」では「国民」ということばが使われていることからわかるように、日本在住の外国人にはそうした権利がないのです。
だから彼らには総選挙の場合も選挙する権利がないのです。
じっさい「なんぴとも」の方が国民よりも数のうえからいって多いのであり、しかもすべての国民は「なんぴとも」のなかに含まれています。
ですから、「なんぴとも」について述べられている条文、たとえば第二十二条は、そのまま「すべての国民」についてもあてはまります。
しかし、第十五条のように「国民」について述べられている条文は外国人にはあてはまりませんし、したがってまた「なんぴとも」にたいしてはあてはまりません。
じっさい「ひと」と「国民」の関係は、「三角形」と「直角三角形」の関係とおなじです。
つまりそうした関係は全体と部分の関係といえます。
そして全体のおのおのについていえることは部分のおのおのについてもいえますが、部分のおのおのについていえることは必ずしも全体のおのおのについてはいえないのです。
13必要条件と十分条件さきほどもちだした憲法第二十条をもりいちど登場させましざき替えてつぎのような条件文にしましIあるものがひとであれば、そのものは信教の自由を保証される。
条件文ですから、前件と後件からなります。
そして前件は後件の条件です。
ところでいまの例の場合、前件、つまり「あるものがひとであれば」は、後件つまり「そのものは信教の自由を保証される」の単なる条件であるだけでなく、十分条件です。
というのも、いまの場合、あるものが猫や犬といったものである場合はとにかくとして、ただひとでありさえすれば、信教の自由を保証されるに十分であり、ひとであるという条件以外になんの条件も必要ではないからです。
つぎに憲法第十五条をつぎのように表現しなおしてみましきあるものか日本国民であれば、そのものは公務員を選定し、及びこれを罷免する権利をもつ。
この場合も前件は後件の十分条件です。
しかしいまの前件「あるものか口本国民である」のかわりに、「あるものがひとである」をもってきますと、こうした条件はもはや十分条件とはいえません。
というのも日本国籍をもたないものは、日本国の公務員の選定や罷免をおこなう権利を与えられていないからです。
しかしながら、それなら「あるものがひとである」はなんの意味ももたない条件でしょうか。
いやけっしてそんなことはありません。
この条件は、その後件にたいして十分条件ではありませんが、しかし必要条件であることは確かです。
それでは必要条件とはなんでしょうか。
必要条件とは、もしそうした条件が存在しないなら、その後件がぜったいに起こりえないといった場合の条件のことをいいます。
いまの例でいうと、あるものがひとであるという条件が存在することなくして、そのものが公務員の選定や罷免の権利をもつといったことはぜったいに起こりえないのです。
こうした必要条件のことをシネータアーノンということがあります。
これはもとはラテン語ですが、のちに英語の中にとりこまれて使われるようになりました。
このラテン語を英語にむりに置きかえ、これをさらに日本語になおしますと「それなくしては、これこれでありえないところの(条件)」となります。
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